夏すみれ - Sputnik 日本

「小さい動機を実際に行動に移すことができたら、大きい夢が見れる」

女子プロレスラーの夏すみれさん
ドミートリ ガヴリーロフ
普通の人の目には、女子レスリングはスポーツ、エンターテイメントとしては日本ではあまり人気のないように映る。だが、実際はどうなのだろうか? 普通の女の子がこの分野で成功できるのだろうか? スプートニク特派員は、プロレスラー夏すみれさんのプロレス興行10周年記念の一連のエキシビションファイトの後、これらの疑問や他の疑問について話し合った。
千葉、幕張メッセで9月末に開催された「東京ゲームショウ2023」を訪れたスプートニク特派員は、「バイオハザード」ブースで女子プロレスラーの夏すみれさんと知り合う機会に恵まれた。夏すみれさんはミニワンピースに血のような赤を匂わせ、その上に黒のレザーのピストルホルダーをつけ、ボブのウィッグという「バイオハザード」の人気キャラのエイダ・ウォンに瓜二つのコスプレで登場。ゲームの世界から抜け出たかと思うほど、あまりにもそっくりで、夏さんにゲームについての質問をぶつけないわけにはいかなかった。その際に夏さんに同伴しておられた方のおかげで夏さんがプロの女子プロレスラーだということがわかった。
コスプレの美人が実はプロレスラーだったという事実にスプートニク特派員は驚き、後にその話を聞いた同局編集スタッフもがぜん興味を示した。そしてぜひとも、もう一度会って、彼女の性格やキャリアについてもっと詳しくお話を聞こうということになった。読者の皆さんはプロレスラーに会う機会は結構ありますか? ないでしょう? 私たちだってない。しかも、私たちの認識では、日本の女子プロレスはあらゆるエンターテインメントやスポーツの中ではアンダーグラウンド 的なものだったからだ。

夏すみれさんをサポートしている伊藤さん(プロレス格闘技メディア『バトル・ニュース』)が夏さんへのスプートニクからの取材依頼に快諾してくださったおかげで、記者は 夏さんとお話できただけでなく、リングの上での格闘技の技を間近で見るチャンスを得た。

AZMと戦う夏すみれ - Sputnik 日本
AZMと戦う夏すみれ
夏すみれさんのプロレスデビュー10周年記念大会にはかなりの数の女子プロレスリングのファンが集まった。イベント会場となった新宿FACEは格闘技の開催で収容人数500人超だが、そこが超満員礼どめまで達していた。イベントは2パートそれぞれ1時間の合計2時間。夏さんは時折、観客の目の前に現れては他の選手、観客と会話をしていたが、ファイナルの6人タッグマッチにとうとう出場し、割れるような拍手の中リングに上がった。せっかくの記念試合というのに、夏さんは負けてしまったが、息もつけぬほど迫真のマッチに観客もレスラーも一人残らず大満足だった。
『Decade of Queens ~夏すみれプロデュース10周年大会~』に参戦した選手たち - Sputnik 日本

『Decade of Queens ~夏すみれプロデュース10周年大会~』に参戦した選手たち

夏すみれ - Sputnik 日本
夏すみれ
彩羽匠と戦う夏すみれ - Sputnik 日本
彩羽匠と戦う夏すみれ
左から小林香萌、夏すみれ、山下りな - Sputnik 日本

左から小林香萌、夏すみれ、山下りな

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『Decade of Queens ~夏すみれプロデュース10周年大会~』に参戦した選手たち

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夏すみれ
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彩羽匠と戦う夏すみれ
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左から小林香萌、夏すみれ、山下りな

夏すみれ、女子プロレスラー - Sputnik 日本

取材は試合の後、夏さんが新宿に経営するカフェで行われた。プロレスコンカフェ「ナツバー」では夏さんが自らカウンターに立ち、ドリンクを注いでくれる。店内は満員で、幾人かのお客さんは立ち席のまま飲んでおられる状態だったが、夏さんはスプートニク特派員に長い時間を割いて下さったおかげで、たくさんの質問をぶつけることができた。まずは、夏すみれというプロレスラーが誕生するきっかけとなったいきさつからお話してくださった。

AZMと戦う夏すみれ - Sputnik 日本

スポットライト浴びたいなとリングの様子を見てる時に思った

スプートニク:

プロレスラーになったきっかけを教えてください。

左から小林香萌、夏すみれ、山下りな - Sputnik 日本

夏すみれ選手:

私はプロレス界に入る前に5年間ぐらい日本で会社とかに勤めるんじゃなくて、パートみたいな感じでずっと働いてて、その期間にあんまり特にやりたいこととかもなく、仕事を始めてもすぐ辞めちゃったりとかして、ふらふらやってたんですよ。結局その時のことを振り返ると、たぶんそういった仕事に飽きちゃった。毎日同じ時間に同じ場所に行って同じ業務をこなすっていうことが私の性格上できなくて。

プロレスに入ったきっかけというのは、あの時私が自分の出身地のバーで働いてたんですけど、そのバーのオーナーのお姉ちゃんが、今日大会にも出場してた広田さくら選手の妹さんで、プロレスっていうものを知って、それをきっかけに見に行った時に、本当に直感的なもので、「あ、これだ!」というふうに思った。こんな話するとみんなに「いや、嘘でしょ!」と言われていたんだ。日本語として注目を浴びることを「スポットライトを浴びる」というふうに表現するんですけど、私はそういう表現としてのスポットライトを浴びるんじゃなくて、物理的な意味でスポットライト浴びたかったとか、あの照明浴びてみたいなあってそのリングの様子を見てる時に思った。でもその日のうちには私は「プロレスラーになると思います」って周りにずっと言ってたんですよ。でも正直、それってその場の勢いだったりっていうのもあって、すぐに行動に移さなかったんですよね。

スプートニク:

それが行動に移ったきっかけは何でしたか?

左から小林香萌、夏すみれ、山下りな - Sputnik 日本

夏すみれ選手:

周りの声が意外と「いいじゃん、いいじゃん!」みたいな、「やれよやれよ!」と。周りは正直ちょっとジョークも含めてるとは思うんだけど、「プロレスやっちゃいなよ」という声があまりにも上すぎて、降りれなくなったんです。そのもう一回言っちゃった言葉を訂正できなくなっちゃった。で、広田さくらさんと知り合いだったっていうのもあって、自分の出身団体の社長からも「あなたいつ来るの?」という声を一回掛けられてて、さすがに本当に一回オーディションは受けないと、ちょっと周りに示しがつかないなと思った。自分がやりたいと言い出した1年後にオーディションを受けたら、残念ながら受かってしまったので、そこからですね。もうオーディション受かっちゃった以上はやらなきゃというのもあったから、そのまま地元を離れて東京に出てきて、寮っていう形で他のスタッフとか選手と共同選手生活をしながら練習していったっていう感じですね。

夏すみれ - Sputnik 日本

10年前、レスラーはバージンであるべきだった。 素の自分とリング上の自分に差が生まれてしまった

夏すみれ選手

スプートニク:

素人から見ると、日本の女子プロレスというのは結構狭い、アンダーグラウンドなスポーツですし、男子プロレスラーの方が多いイメージなんですね。夏さんが女子プロレスをやっている際に、どういった偏見とか困難に直面しましたか? どうやってその困難を乗り越えましたか?

左から小林香萌、夏すみれ、山下りな - Sputnik 日本

夏すみれ選手:

今でこそ女子プロレスというもの自体も割とその男子プロレスに近くなってきたというか、今日の大会に協力してもらったスターダムさん(筆者注:日本の女子プロレス団体 )を筆頭に、世界基準で日本の女子プロレスの評価そのものが上がってきています。今もアメリカで日本の女子選手を中心とした団体がいくつもできたりとかしてるんですね。ただ、私がデビューした10年前というのは決してそういう状況ではなくて、よりもっとアンダーグラウンドなものだったんですよね。本当にあの200人、300人しか入らないようなハコで活動するというのがメインだった。その頃は女子プロレスがセクシーな要素も含みつつも、その反面でレスラーに対して処女性、要はレスラーはバージンであるべきだという風潮がまだ残ってたんですよ。

だから私もデビュー当初は白い純白のコスチュームで、全然今と違うキャラクター、こんなにメイクもしてないような感じで活動してたんです。それが素の自分とリング上の自分にすごい差が生まれてしまっていた。そのデビュー当初はそこの部分を結構悩んでたんですよね。ファンの人からはやっぱりそういう清純なものであってほしいっていう思いを込められてるし、リング上は神聖であるべきだっていうものがあったからこそ、それをやらなきゃいけなかったし。でも実際その自分っていうのは、さっきも言ったとおり、5年間遊びながら仕事してるような人間だったから、それとは全然剥離してたんですよね。最初はそこにすごい苦しんだなっていうのはありますね。

左から赤井沙希、AZM、彩羽匠、夏すみれ、山下りな、小林香萌 - Sputnik 日本

スプートニク:

女子プロレスになられた当初は女性があまりいなかったし、女子プロレス自体がアンダーグラウンドなものだったと思いますが、そういった環境でプロレスのキャリア的に、 そして日本人女性として成功することはできますか?

左から小林香萌、夏すみれ、山下りな - Sputnik 日本

夏すみれ選手:

それも私がデビューした10年前というのは、どうしても女子プロレスというジャンル自体がすごい狭い部分だったからこそ、そういう女性の成功例ってなかったんですけど、ただ数年前に、今WWE(注:アメリカのプロレス団体、興行団体)で活躍しているアスカという選手がいて、その世界最大のプロレス団体で、本当に一回大会打つと何万人も入るような会場で試合ができるような環境で、日本人女性がそこで成功して、チャンピオンベルトを持ったんですね。で、それをきっかけにどんどん日本の女子選手が海外に挑戦していくっていう流れが増えている。その中で日本国内でも今、「スターダム」さんを筆頭に女子プロレスというジャンル自体が割と一般層になった。その単語がまず耳に入るようになったから、昔はそれが想像できなかったと思うんですけど、この現時点で活躍が難しいかと言われたら、今はそれはないですね。

夏すみれのレスリングマッチ - Sputnik 日本

プロレスってヤラセじゃないの?

スプートニク:

一般人がプロレスに対して抱いている最も大きな偏見とか誤解は何だと思いますか?

左から小林香萌、夏すみれ、山下りな - Sputnik 日本

夏すみれ選手:

日本人が一番思う大きなところというのは、「プロレスってヤラセじゃないの?」「全部決めてやってるんでしょ?」っていうところだと思うんですよね。確かに勝負性はちゃんとあるんですよ 。そこに勝負論というのはもちろんあるんです。ただプロレスというジャンルはものすごく複雑なのが、勝負論にこだわってたらあんまり伸びないというのがあって、最大限の自分の魅力であったりだとか、時には対戦相手の魅力をあえて引き出すことによって自分の評価が上がるっていう部分もあるから、そこに至ると勝負論だけでは語れない部分もありますよね。だから、それがプロレスの魅力である反面、プロレスをよく知らない人からは「いや、どうせそうじゃん」というふうに見られてしまうっていうのは、たぶん今後もなくならないものかなとは思います。

AZMと戦う夏すみれ - Sputnik 日本

AZMと戦う夏すみれ

AZMと戦う夏すみれ - Sputnik 日本

AZMと戦う夏すみれ

AZMと戦う夏すみれ - Sputnik 日本

AZMと戦う夏すみれ

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AZMと戦う夏すみれ

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AZMと戦う夏すみれ

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AZMと戦う夏すみれ

スプートニク:

日本ではプロレスをやって生計を立てることができますか?

左から小林香萌、夏すみれ、山下りな - Sputnik 日本

夏すみれ選手:

それが実はできるんですよ。ただ、難しい問題なのが、生計を立てるどころか、成功を収める人もいれば、できてない人もいます。それはプロレスに限ったものではなくて、芸能の世界と全く同じかなって思います。給料に関しては、よくなったという表現が一番正しいかもしれないですね。やっぱり昔は1本で食べれないという選手も結構ザラにいたんですけど、今はむしろそっちの方が少ないんじゃないかなと思います。特にスターダムさんという大きい団体ができてから、みんな本当にプロレス1本で生活している選手が多いから、全然女子プロレスだけでも生活はできます。

夏すみれ - Sputnik 日本
夏すみれ選手

スプートニク:

プロレスラーになりたい若い女の子たちに、どんなメッセージを送りたいですか。

左から小林香萌、夏すみれ、山下りな - Sputnik 日本

夏すみれ選手:

私の方にもSNSだったり、実際にリアルな友達だったりで、「プロレスやってみたい、でも怖い」という人が多いんですよね。でもその気持ちってみんなそうなんですよ。私は今、大会終わって店やってますけど、めちゃくちゃ腰痛いですよ。なんだけど、それでも続ける理由というのは、それ以上の魅力があるからだと思います。それを一概に言葉で言えないというか。だからこそみんなが続けてるものだと思うし、それが結局魅力なんじゃないかなと思うんですよね。だからプロレスをやりたいという気持ちがやりたいまで至らなくてもいいです。私と同じように自分もスポットライトを浴びてみたいなという動機でもいいと思うんですよ。小さい動機を実際に行動に移すことができたら、大きい夢が見れる。だから、もしちょっとでも気になってる若い女の子がいたら、どんどんトライしてもらいたいと思うし、 仮にトライをしてやっぱりダメだ思ったらそれはそれでいいと思いますよ。やらない後悔よりもやった後悔の方がいいと思うから。もし気になるならとりあえず一回勇気を持ってやってみてほしいなって思ってます。

気になってる若い女の子がいたら、トライしてもらいたい。

夏すみれ - Sputnik 日本
夏すみれ選手
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