夏すみれさんをサポートしている伊藤さん(プロレス格闘技メディア『バトル・ニュース』)が夏さんへのスプートニクからの取材依頼に快諾してくださったおかげで、記者は 夏さんとお話できただけでなく、リングの上での格闘技の技を間近で見るチャンスを得た。
『Decade of Queens ~夏すみれプロデュース10周年大会~』に参戦した選手たち
左から小林香萌、夏すみれ、山下りな
『Decade of Queens ~夏すみれプロデュース10周年大会~』に参戦した選手たち
左から小林香萌、夏すみれ、山下りな
取材は試合の後、夏さんが新宿に経営するカフェで行われた。プロレスコンカフェ「ナツバー」では夏さんが自らカウンターに立ち、ドリンクを注いでくれる。店内は満員で、幾人かのお客さんは立ち席のまま飲んでおられる状態だったが、夏さんはスプートニク特派員に長い時間を割いて下さったおかげで、たくさんの質問をぶつけることができた。まずは、夏すみれというプロレスラーが誕生するきっかけとなったいきさつからお話してくださった。
スポットライト浴びたいなとリングの様子を見てる時に思った
スプートニク:
プロレスラーになったきっかけを教えてください。
夏すみれ選手:
私はプロレス界に入る前に5年間ぐらい日本で会社とかに勤めるんじゃなくて、パートみたいな感じでずっと働いてて、その期間にあんまり特にやりたいこととかもなく、仕事を始めてもすぐ辞めちゃったりとかして、ふらふらやってたんですよ。結局その時のことを振り返ると、たぶんそういった仕事に飽きちゃった。毎日同じ時間に同じ場所に行って同じ業務をこなすっていうことが私の性格上できなくて。
プロレスに入ったきっかけというのは、あの時私が自分の出身地のバーで働いてたんですけど、そのバーのオーナーのお姉ちゃんが、今日大会にも出場してた広田さくら選手の妹さんで、プロレスっていうものを知って、それをきっかけに見に行った時に、本当に直感的なもので、「あ、これだ!」というふうに思った。こんな話するとみんなに「いや、嘘でしょ!」と言われていたんだ。日本語として注目を浴びることを「スポットライトを浴びる」というふうに表現するんですけど、私はそういう表現としてのスポットライトを浴びるんじゃなくて、物理的な意味でスポットライト浴びたかったとか、あの照明浴びてみたいなあってそのリングの様子を見てる時に思った。でもその日のうちには私は「プロレスラーになると思います」って周りにずっと言ってたんですよ。でも正直、それってその場の勢いだったりっていうのもあって、すぐに行動に移さなかったんですよね。
スプートニク:
それが行動に移ったきっかけは何でしたか?
夏すみれ選手:
周りの声が意外と「いいじゃん、いいじゃん!」みたいな、「やれよやれよ!」と。周りは正直ちょっとジョークも含めてるとは思うんだけど、「プロレスやっちゃいなよ」という声があまりにも上すぎて、降りれなくなったんです。そのもう一回言っちゃった言葉を訂正できなくなっちゃった。で、広田さくらさんと知り合いだったっていうのもあって、自分の出身団体の社長からも「あなたいつ来るの?」という声を一回掛けられてて、さすがに本当に一回オーディションは受けないと、ちょっと周りに示しがつかないなと思った。自分がやりたいと言い出した1年後にオーディションを受けたら、残念ながら受かってしまったので、そこからですね。もうオーディション受かっちゃった以上はやらなきゃというのもあったから、そのまま地元を離れて東京に出てきて、寮っていう形で他のスタッフとか選手と共同選手生活をしながら練習していったっていう感じですね。
10年前、レスラーはバージンであるべきだった。 素の自分とリング上の自分に差が生まれてしまった
スプートニク:
素人から見ると、日本の女子プロレスというのは結構狭い、アンダーグラウンドなスポーツですし、男子プロレスラーの方が多いイメージなんですね。夏さんが女子プロレスをやっている際に、どういった偏見とか困難に直面しましたか? どうやってその困難を乗り越えましたか?
夏すみれ選手:
今でこそ女子プロレスというもの自体も割とその男子プロレスに近くなってきたというか、今日の大会に協力してもらったスターダムさん(筆者注:日本の女子プロレス団体 )を筆頭に、世界基準で日本の女子プロレスの評価そのものが上がってきています。今もアメリカで日本の女子選手を中心とした団体がいくつもできたりとかしてるんですね。ただ、私がデビューした10年前というのは決してそういう状況ではなくて、よりもっとアンダーグラウンドなものだったんですよね。本当にあの200人、300人しか入らないようなハコで活動するというのがメインだった。その頃は女子プロレスがセクシーな要素も含みつつも、その反面でレスラーに対して処女性、要はレスラーはバージンであるべきだという風潮がまだ残ってたんですよ。
だから私もデビュー当初は白い純白のコスチュームで、全然今と違うキャラクター、こんなにメイクもしてないような感じで活動してたんです。それが素の自分とリング上の自分にすごい差が生まれてしまっていた。そのデビュー当初はそこの部分を結構悩んでたんですよね。ファンの人からはやっぱりそういう清純なものであってほしいっていう思いを込められてるし、リング上は神聖であるべきだっていうものがあったからこそ、それをやらなきゃいけなかったし。でも実際その自分っていうのは、さっきも言ったとおり、5年間遊びながら仕事してるような人間だったから、それとは全然剥離してたんですよね。最初はそこにすごい苦しんだなっていうのはありますね。
スプートニク:
女子プロレスになられた当初は女性があまりいなかったし、女子プロレス自体がアンダーグラウンドなものだったと思いますが、そういった環境でプロレスのキャリア的に、 そして日本人女性として成功することはできますか?
夏すみれ選手:
それも私がデビューした10年前というのは、どうしても女子プロレスというジャンル自体がすごい狭い部分だったからこそ、そういう女性の成功例ってなかったんですけど、ただ数年前に、今WWE(注:アメリカのプロレス団体、興行団体)で活躍しているアスカという選手がいて、その世界最大のプロレス団体で、本当に一回大会打つと何万人も入るような会場で試合ができるような環境で、日本人女性がそこで成功して、チャンピオンベルトを持ったんですね。で、それをきっかけにどんどん日本の女子選手が海外に挑戦していくっていう流れが増えている。その中で日本国内でも今、「スターダム」さんを筆頭に女子プロレスというジャンル自体が割と一般層になった。その単語がまず耳に入るようになったから、昔はそれが想像できなかったと思うんですけど、この現時点で活躍が難しいかと言われたら、今はそれはないですね。
プロレスってヤラセじゃないの?
スプートニク:
一般人がプロレスに対して抱いている最も大きな偏見とか誤解は何だと思いますか?
夏すみれ選手:
日本人が一番思う大きなところというのは、「プロレスってヤラセじゃないの?」「全部決めてやってるんでしょ?」っていうところだと思うんですよね。確かに勝負性はちゃんとあるんですよ 。そこに勝負論というのはもちろんあるんです。ただプロレスというジャンルはものすごく複雑なのが、勝負論にこだわってたらあんまり伸びないというのがあって、最大限の自分の魅力であったりだとか、時には対戦相手の魅力をあえて引き出すことによって自分の評価が上がるっていう部分もあるから、そこに至ると勝負論だけでは語れない部分もありますよね。だから、それがプロレスの魅力である反面、プロレスをよく知らない人からは「いや、どうせそうじゃん」というふうに見られてしまうっていうのは、たぶん今後もなくならないものかなとは思います。
AZMと戦う夏すみれ
AZMと戦う夏すみれ
AZMと戦う夏すみれ
AZMと戦う夏すみれ
AZMと戦う夏すみれ
AZMと戦う夏すみれ
スプートニク:
日本ではプロレスをやって生計を立てることができますか?
夏すみれ選手:
それが実はできるんですよ。ただ、難しい問題なのが、生計を立てるどころか、成功を収める人もいれば、できてない人もいます。それはプロレスに限ったものではなくて、芸能の世界と全く同じかなって思います。給料に関しては、よくなったという表現が一番正しいかもしれないですね。やっぱり昔は1本で食べれないという選手も結構ザラにいたんですけど、今はむしろそっちの方が少ないんじゃないかなと思います。特にスターダムさんという大きい団体ができてから、みんな本当にプロレス1本で生活している選手が多いから、全然女子プロレスだけでも生活はできます。
スプートニク:
プロレスラーになりたい若い女の子たちに、どんなメッセージを送りたいですか。
夏すみれ選手:
私の方にもSNSだったり、実際にリアルな友達だったりで、「プロレスやってみたい、でも怖い」という人が多いんですよね。でもその気持ちってみんなそうなんですよ。私は今、大会終わって店やってますけど、めちゃくちゃ腰痛いですよ。なんだけど、それでも続ける理由というのは、それ以上の魅力があるからだと思います。それを一概に言葉で言えないというか。だからこそみんなが続けてるものだと思うし、それが結局魅力なんじゃないかなと思うんですよね。だからプロレスをやりたいという気持ちがやりたいまで至らなくてもいいです。私と同じように自分もスポットライトを浴びてみたいなという動機でもいいと思うんですよ。小さい動機を実際に行動に移すことができたら、大きい夢が見れる。だから、もしちょっとでも気になってる若い女の子がいたら、どんどんトライしてもらいたいと思うし、 仮にトライをしてやっぱりダメだ思ったらそれはそれでいいと思いますよ。やらない後悔よりもやった後悔の方がいいと思うから。もし気になるならとりあえず一回勇気を持ってやってみてほしいなって思ってます。
気になってる若い女の子がいたら、トライしてもらいたい。